異国情緒漂う根室で、最東端のセレクトショップ
初めて訪れる根室は、道路標識にもロシア語が併記されているなど、街中でもどこか異国情緒が漂う場所でした。少し郊外、自動車メーカーが並ぶ大きな通りに面して、元自動車工場というガレージ風の建物の窓から、大きなキリンの剥製が見えます。とうとう根室に来た。。。最東端のセレクトショップ「guild Nemuro」を訪ねて。
数年前、苫小牧のイコロの森でのイベント「おとなのあきじかん」で、フィンランドの植物標本の展示「recollection」を開催している青年がいました。ヨーロッパで買い付けたという100年くらい前のフィンランドで作られた植物標本と、外国語で記載された説明書きが額に入って、壁一面に展示されていました。フィンランドとその周辺で採取されたという植物は、北海道でも見かける植物が含まれていて、なんとなく見ていると、懐かしい気持ちと共に親近感が湧きます。そして、真摯な姿勢で説明してくれた彼の雰囲気と、古い標本をこんな風に、部屋に飾りたくなる一品に変えてしまうセンスに心惹かれました。青年の名は、中島孝介さん。2012年に東京から日本の最東端の街根室に移住。翌年から「guild Nemuro」というセレクトショップを開き、様々な時代、国籍の製品を扱っています。私も東京にいる時、時々のぞいていた恵比寿のリムアート(現在はPOSTとRECTOHALLというショップ名で活動)にいた人が、なぜ根室で嗜好品を扱うセレクトショップなのだろう。強い興味が湧きました。
時の流れを経てヨーロッパから根室に渡ったアンティーク
「guild Nemuro」の入口の扉を開けた時、薪ストーブが燃える、どこか異国の博物館を感じさせるような店内で、中島さんと一人の男性が談笑しています。その若い男性は、根室市内地元の老舗寿司店「すし善」の二代目。楽しそうに談笑し、根室にすっかり馴じんでいるようです。中島さんが根室での暮らしを楽しみながら発信する世界は、その真摯な姿勢と優しさで、根室への注目度を上げ、関心を持つ人を確実に増やしています。「guild Nemuro」には、中島さんがヨーロッパで直接買い付けしたアンティーク雑貨をはじめ、毎日の生活を豊かにしてくれるようなものが並んでいます。ぶれない視点と感性で選んだ製品は、古いものも新しいものも、きっと時の流れや場所を超えて、その感性を共有したい人のところへちゃんと届くのでしょう。そして彼の人柄が、人を、モノを、場をこれからもつないでいくのです。中島さんは、自分の店を持つことを具体的に考えるタイミングで、縁あって根室を訪ねた。落石海岸や春国岱などを巡り、滞在2日間で根室への移住を決め、3か月後には完全移住。元々好きだったアンドリュー・ワイエスの絵の世界が目の前に広がっていると感じたからだといいます。アンドリュー・ワイエスは、繊細な素描で田舎の風景と素朴な人物の美を描いた20世紀のアメリカの画家です。乾いた色合いで、詩情あふれる画風が特徴で、彼の作品はほぼ全て、生地であるペンシルベニア州フィラデルフィア郊外のチャッズ・フォードという村と、別荘のあるメーン州クッシングの2つの場所の風景とそこに住む人々が描かれています。
まるでアンドリュー・ワイエスの絵の世界!根室がもたらす光景
翌日、中島さんお勧めの落石海岸に行ってみると、車窓から見える風景は、確かに見せてもらったアンドリュー・ワイエスの画集で見た風景にとても似ていた。遠くに切り立った崖が連なり、見慣れない木肌模様をした木々が現実の風景というより本当に絵のようである。強い風が打ち付ける海岸線に立ち、ここでは流されていては決して生きていけない、凛としていなければ暮らせない、本能的にそれを感じた。この感覚が、今、アーティストやクリエーターをはじめとする多くの都会の若者を惹きつける根室という場所の持つ魅力なのかもしれない。