山崎まさよしさんのコンサートが、函館の五稜郭内に特設されて開催されました。北海道の地震により観光客も少なくなった函館の街にその歌声が響き、人々の心に寄り添い、復興に向けての光が灯りました。
目次
函館の光が消えた日
北海道に大きな揺れがあったその日(2018年9月6日)、テレビをつけると、世界三大夜景といわれる函館の輝いていた夜景の灯が、函館山のふもとからいっせいに消えていきました。
その時、200万都市札幌の光も失われ、頭上には満天の星空が浮かびました。
北海道から、地上の光が消えた瞬間でした。
北海道の地震による被害は、連日つぶさに新聞、テレビ、インターネットで報道されました。
余震が続いていたこともあり、北海道の観光地域は例年になく人はまばらとなり、その損害は数百億にも及ぶといわれています。
観光都市函館も例外ではなく、停電は一日で復旧、地震による直接の被害は少ない状況でしたが、宿泊のキャンセルは相次ぎ、全国、海外からの観光客で賑わっていた例年の函館の光景とは様相を変え、静まり返っていました。
2011年4月、東日本大震災から一か月、山崎まさよしさんは、サントリーホールの舞台に立ちました。
そして、北海道胆振東部地震から10日目(2018年9月15日)、山崎まさよしさんは、北海道の函館で歌を届ける使命を担いました。
使命という言葉は、個人的な感覚で、適切ではないかもしれません。
ただ、函館のあの“場所”で、その鮮烈な“時”を共有したとき、偶然ではない何かを感じました。
「山崎まさよしQuartet Special Live in 函館・五稜郭」開催!
2018年9月15日、明治150年、北海道150年の節目にあたり、「歴史的空間での一期一会のコンサートを楽しんでほしい」との思いが込められ、「山崎まさよしQuartet Special Live in 函館・五稜郭」が実施されました。
その特別な舞台は、“人々が生きていく、その心の原風景を生み出していく感動。”を目指し、全国各地の世界遺産や文化財、寺社などを会場に企画運営するSAP社の企画運営のもとに、幕末から明治の転換期の地となった五稜郭に用意されました。
電力供給がまだ安定していない北海道の状況を踏まえて、会場は自家発電機が用いての開催です。
被災によりご来場できない方、やむを得ない事情のある方等、全てのキャンセルを受け付け、会場では被災地支援のための救援金が受け付けられるなど、山崎まさよしさん、主催社及び運営企画社など関係者による細部にわたる配慮のもとに、実施されました。
函館のシンボルともいえる五稜郭タワーに登ると、函館山、函館空港、津軽海峡、函館の街が広がります。
そして、星形の五稜郭の中に、本日の舞台が見えました。
江戸幕府の役所である箱館奉行所のすぐ近くに特設されています。
函館の闇夜に響く名曲「One more time one more chance」
会場は幅広い世代の観客で埋め尽くされ、ステージの背後には、奉行所の建物と、幕末に植えられた樹齢150年以上の松の並木があり、その壮絶な歴史がもたらす哀愁が漂います。
日が傾き、夕陽でステージが照らされる頃、山崎まさよしさんが登場しました。
温かな笑顔で、いたっていつも通りに、会場の子供に笑顔で話しかけるなど、様々な思いを胸にしている観客の緊張の糸を緩めながら、山崎まさよしさんは歌を届けていきます。
MCにおいても、震災や地震という刺激を受けるような直接的な言葉を使うことをせず、「北海道では大変なことがあったけど、元気を取り戻す意味も込め一生懸命歌います」と、すべてを歌に込められていました。
「One more time one more chance」のイントロが流れ出したとき、会場に歓声があがり、そしてすぐに静まり返りました。
その言葉は、大切な人との別れを経験した人にとっては、表現しようがない自身の心の様に寄り添います。
歌や奏でられる音が、聴く人の心に浸透していくのが、観客の表情を見れば手に取るようにわかります。
歌手、表現者としてのプロフェッショナルの姿でした。
「がんばれ、北海道!」寄り添う歌がある
アンコール前の最後の歌“晴男”のとき、様々な思いを抱えながら五稜郭の地に集まった“個”が、一つの大きな“輪”になりました。
“僕らはいつだって 同じ空を見ているのさ
そしてずっとこの先も 青い夢を描いていくのさ
泣いたり笑ったりしながら“
(晴男 作詞:山崎将義 一部抜粋)
もはや孤独や虚しさではなく、誰もが希望を見つけ、その空間でしか生まれることができない感情の高ぶりを感じた時、山崎まさよしさんが、五稜郭の星型の光とライトアップされた松をバックに、「がんばれ、北海道!」渾身の思いで叫びました。
その言葉に呼応するかのように大歓声が上がり、最後に感謝の言葉を「ア・リ・ガ・ト」の歌に込め、山崎まさよしさんは舞台を後にしました。
主役が去った舞台には、松の巨木が浮かんでいました。150年の間に、風が吹き、雪が積もり、その中でも、生き抜いてきた姿です。
震災後の寂しい函館の街の記憶は、忘れることのできないシーンに塗り替えられました。
来年の春には、ここ五稜郭には、まちがいなくまた満開の桜が咲き、笑顔であふれた全国、全世界の人が訪れるでしょう。
その中で、今宵ここに集った人は、五稜郭の中心で行われた夢のひとときを鮮烈な記憶とともに思い浮かべるのです。
北海道復興の光が、歴史ある五稜郭の地で灯されました。
※ 当記事はTheNewsへ提供した記事を著者が再編集し書き下ろしたものです。
※アーティストの写真は、所属事務所より確認許可をいただいた写真のみ掲載しています。